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名古屋高等裁判所 昭和46年(ネ)693号 判決 1975年3月13日

控訴人 三重県公立学校職員互助会

右代表者理事長 関根則之

右訴訟代理人弁護士 戸田謙

同 伊藤広保

被控訴人 辻本由雄

<ほか一三名>

右一四名訴訟代理人弁護士 竹下伝吉

同 神谷幸之

被控訴人 若林貞子

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一申立

控訴人訴訟代理人は、(1) 原判決取消、(2) 原判決事実摘示第一の一の1と同旨(但し(八)を除く)、(3) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人ら負担の判決および仮執行の宣言を求め、被控訴人ら(被控訴人若林貞子を除く)訴訟代理人は主文同旨の判決を求めた。

被控訴人若林貞子は当審各口頭弁論期日に出頭しないが、その提出した答弁書の記載によれば、主文同旨の判決を求めるというのである。

第二主張

一  控訴人代理人の主張

(一)  控訴人は昭和二九年一二月に三重県公立学校職員の共済制度に関する条例(昭和二九年三重県条例第八二号)および三重県公立学校職員互助会設置規則(三重県教育委員会規則)に基礎を置き三重県下の公立学校職員を以て組織し、職員の相互共済・福利増進をはかることを目的として設立された団体で権利能力なき社団である。なお、代表者である理事長には三重県教育長をあてるほか、副理事長には同県教職員組合執行委員長および同県教育委員会福利課長をあて、理事として同県高等学校長会・中学校長会・小学校長会の各会長、同県教育事務所長会長・同県教職員組合執行委員等をあて、事務局は教育委員会福利課におかれ、財政は会員から徴収する会費とその合計額の五五%に相当する補助金によって賄われるものである。

(二)  津市大字藤方八四三番地の二所在家屋番号八六番の建物(原判決別紙物件目録記載の各建物はその一部で、以下本件建物という)は、もと別荘の賃貸等を業とする訴外南御殿場遊園土地株式会社(以下単に訴外会社という)の所有であったが、控訴人がこれを訴外会社から譲受けて所有するに至ったものであり、その経緯は次のとおりである。

1、三重県動員学徒援護会(以下訴外援護会という)は昭和一九年一月頃、学徒動員により三重県下の軍需工場において働いていた学校生徒および付添教員の福利厚生をはかることを目的として設立された団体であり、会長に三重県知事、副会長に県内政部長をあてていたが、実際の運営については内政部教学課が実質的な権限を付与されてこれにあたっており、日常の事務に関しては同課職員の訴外三柳将雄がこれを担当していた。

2、訴外援護会は設立後間もなく訴外会社より本件建物を賃借し、動員学徒および付添教員のための保養所として使用していたが、訴外会社の株主は戦火が激しくなったため会社経営の意欲を失い、訴外援護会に対し訴外会社の株式全部を買取るかまたは会社財産全部を買取るよう要請した。

訴外援護会は右要請について検討した結果、訴外会社の財産は引続いてこれを使用する必要があり、かつ同会には充分な資金の蓄積があったことから右要請に応ずることとしたが、同会が法人格を有していないため不動産を取得しても同会名義で所有権移転登記を得られないこと、同会がその運営に関して実質的権限を有する内政部長ほか数名の名をもって会社の株式全部を取得することにより会社を支配し得ることなどから、訴外会社の株式全部を譲受けることとし、昭和二〇年七月、内政部長ほか六名が訴外援護会との一種の信託関係に基づき、訴外松下憲治郎ほか四名から代金約二六万円(但し出捐者は訴外援護会)で株式全部を譲受けた。

3、右株式譲渡がなされた後、訴外会社は、訴外援護会の運営について実質的権限を有していた内政部教学課がその経営にあたり、日常の会社管理については前記三柳将雄がこれにあたっていたところ、株式譲渡の約一ヶ月後である昭和二〇年八月一五日終戦を迎えるにおよび、訴外援護会は当初の設立目的を終了し、目的変更または解散の必要を生ずるに至った。そこで、終戦の約六ヶ月後である昭和二一年二月頃訴外援護会の役員が協議した結果、訴外会社所有の本件建物を含む全財産を県下の児童・生徒および教職員の福利厚生のために使用することが適当であるとの結論に達した。そのため訴外会社を解散してその所有財産を右目的の遂行に適した団体に無償で譲渡することとなり、同月二五日訴外会社の臨時株主総会を開催し、解散の決議をして清算人に前記三柳将雄を選任し、同時に訴外会社の全財産を三重県または財団法人勤労学徒援護会三重県支部に無償譲渡する旨の決議をして訴外会社は清算手続に入った。

右財産無償譲渡に関する二決議の趣旨は、三重県が県下の児童・生徒および教職員の福利厚生の目的のためにこの財産を使用するならばこれを無償譲渡してもよいし、また、訴外援護会が目的を変更し、当時既に存在していた財団法人勤労学徒援護会(後に財団法人学徒援護会と改称)の支部として存続するならばこれに無償譲渡してもよいというもので、要するに児童・生徒および教職員の福利厚生を目的とする団体に右財産を贈与するというものである。

ところが、三重県に対する贈与については同県がこれを採納しなかったため不成立に帰し、また訴外援護会も財団法人勤労学徒援護会の支部とならず、その後消滅したためこれも不成立に終った。

そこで訴外会社は会社財産を右目的にそうべく無償譲渡をするという清算の目的を達するまでの間、三柳清算人のもとで清算続行中の状態となり、本件建物等の管理については三柳が訴外松下憲治郎に委任してこれをおこなっていた。

4、その後昭和二八年に三柳将雄が東京へ転勤することになり、訴外会社の財産管理の引継の必要を生じた。またその頃右財産の管理をめぐって種々問題が提起されたこともあって、三重県の教育界において右財産の管理および処分につきしかるべき方策を立てるべきであるとの声が高まった。

そこで同年七月、三重県教育委員会、同県公立学校長会三会(同県高等学校長会、同県中学校長会、同県小学校長会)、同県教職員組合(以下これらを訴外三団体という)および三柳将雄が協議した結果、将来右財産を引継ぐに適した目的を有する団体が結成されたときは右財産をその団体に贈与すること、それまでの間訴外三団体がこれを管理することという趣旨で三柳将雄から訴外三団体に対し訴外会社所有の全財産についてその管理処分権(他人の財産について管理行為および処分行為の一切を代理人たることを表示し、または表示することなくなし得る権限で代理権をも包括する)の譲渡がなされた。そしてその後の本件建物等の管理については、三重県教育委員会がこれにあたることとし、入居者の選定など現実の管理をしていた。

5、訴外三団体は、控訴人が設立後二年を経過して機構も整備され業務も軌道に乗って訴外会社所有の財産を承継するにふさわしい実体を有するに至ったので、昭和三一年一二月七日頃訴外三団体の管理処分権に基づき訴外会社所有の本件建物を含む一切の不動産および動産を控訴人に無償譲渡し、控訴人はこれを譲受けその引渡しを受けた。

6、不動産の所有権移転登記については、控訴人が法人格を有しないためその代表者理事長である三重県教育長名で信託的にこれをなすこととした。

そこで、当時既に清算結了登記のなされていた訴外会社について右登記の抹消手続をして清算を再開したうえ、昭和三三年三月一三日、訴外会社および訴外三団体承諾のうえ、当時控訴人代表者理事長であった訴外小和田武紀(当時の三重県教育長)名義をもって所有権移転登記をなした。

(三)  かりに右譲受けの主張が容れられないとしても、控訴人は本件建物の所有権を時効によって取得した。即ち、

訴外三団体は昭和二八年七月訴外会社(清算人訴外三柳将雄)から本件建物の引渡を受けて、所有の意思をもって占有を開始し、次いで控訴人が昭和三一年一二月七日頃右三団体から本件建物等の引渡を受けて所有の意思をもって占有を開始してこれを継続している。

従って、訴外三団体の占有期間を算入して通算すると控訴人は本件建物を一〇年以上の期間にわたって所有の意思をもって平穏かつ公然に占有したことになり、かつ、訴外三団体および控訴人はいずれも占有のはじめにおいて善意にして無過失であるから、短期取得時効によってその所有権を取得したものである。

(四)  被控訴人ら(但し、被控訴人鈴木を除く)は、本件建物のうち原判決別紙物件目録に被控訴人別に記載された各建物をそれぞれ昭和三二年一一月以前から賃借していたものである。

控訴人は前記の如く本件建物の所有権を取得し、それと同時に賃貸人たる地位をも承継し、その後昭和三二年一一月一二日被控訴人らに対して適正賃料を定めるための協議を申し入れたところ、被控訴人らは本件建物を廉価で払下げることを要求し、これに応じなければ控訴人が本件建物の所有者であることを認めず、また賃料を支払う意思もないことを申入れてきた。その後の交渉の過程においても被控訴人らは同様の要求を繰返し賃料不払いの意思を表明し続けた。しかも被控訴人らは昭和三八年三月一四日津地方裁判所に控訴人を被告として本件建物に関する賃貸借不存在確認等の訴を提起し、控訴人の本件建物に関する所有権および賃貸人たる地位を公然と否認するに至った。

被控訴人らの右行為は本件建物に関する控訴人と被控訴人らとの間の賃貸借契約関係を根底から破壊する著しい背信行為である。そこで控訴人は被控訴人らに対しこれを理由に本件訴状送達をもって本件建物の賃貸借契約を解除する旨の意思表示をし、これにより控訴人と被控訴人ら(被控訴人鈴木を除く)との間の賃貸借契約は終了した。

(五)  被控訴人鈴木清塚は昭和二〇年頃訴外会社から本件建物のうち木造瓦葺平家建居宅一棟床面積約六六平方メートルを賃借していたが、昭和三八年三月八日、善良な管理者の注意義務を欠いた失火によりこれを焼失せしめ、これにより右建物の所有者かつ賃貸人たる控訴人に対し焼失時の右建物の時価相当額である二六七、五〇〇円の損害を与えた。

(六)  よって、控訴人は、被控訴人ら(被控訴人鈴木を除く)に対し、前記各賃貸建物の明渡しと、控訴人が被控訴人らに適正賃料額決定のための協議を申入れた翌月である昭和三二年一二月一日から昭和四一年五月三一日までの各適正賃料額により算出した名延滞賃料の合計(原判決別表(一)の各(1))およびこれに対する本件訴状送達の翌日である被控訴人藤田については昭和四一年七月三日から、被控訴人森戸については同月四日から、被控訴人渡辺については同月一七日から、被控訴人若林については同年一二月四日から、その余の被控訴人らについてはそれぞれ同年七月二日から各支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金ならびに昭和四一年六月一日から右明渡ずみまで各適正賃料額(前記別表(一)の各(2))相当の損害金の支払を求め、被控訴人鈴木に対し、前記賃貸建物の焼失時における時価相当額二六七、五〇〇円と右昭和三二年一二月一日から焼失時までの適正賃料額により算出した延滞賃料合計二五、一六一円および右各金員に対する本件訴状送達の翌日である昭和四一年七月一日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被控訴人ら(被控訴人若林貞子を除く、本項中以下同じ)

訴訟代理人の主張

(一)  請求原因(一)の事実中控訴人の設立に関する点は認める。

(二)  請求原因(二)の事実中本件建物がもと訴外会社の所有であったことは認めるが、控訴人が訴外会社からこれを譲受け所有するに至ったという点は争う、即ち、

1、訴外会社は昭和二〇年二月頃本件建物を含むその所有不動産を訴外援護会に対し代金二六万円で売渡した。従って、控訴人互助会がその後に訴外会社から本件建物を譲受けたとしてもその所有権を取得するに由ないものである。

控訴人は原審第一四回口頭弁論期日において、訴外援護会は昭和二〇年七月訴外会社から本件建物を含む不動産を代金二六万円で買受けた旨陳述し、さらに原審第一七回口頭弁論期日において、訴外会社は昭和二一年二月の株主総会において本件建物を訴外援護会に無償譲渡する旨決議したところ訴外援護会は右譲受けを承諾したと陳述し、本件建物が訴外援護会に譲渡されたことを自白しているのであるから、これを当審において撤回し、右譲渡契約は結局不成立に終ったと主張することには異議がある。

昭和三三年三月一三日訴外会社から小和田武紀に対する所有権移転登記がなされたことは認める。しかしながら、右登記手続は三柳将雄が訴外会社の元清算人の資格においておこなったものであるところ、元清算人においてなし得るのは清算結了前に登記原因が存したまたま登記が未了であった場合の登記手続のみであり、清算結了後の原因に基づく登記手続をなす権限を有しないのであるから、右登記はその手続をなす権限を有しない者によってなされたものとして無効である(登記簿上の登記原因は昭和二一年二月二六日売買であるが、当時控訴人互助会は存在しなかったから右が架空の登記原因であること明らかである)。

2、昭和二〇年七月訴外援護会の役員が訴外会社の株式全部を代金二六万円で譲受けたという点については、それが有償であった点および役員が実質的にも株主になった点を否認する。即ち、前記1に主張したように訴外援護会は本件建物等を代金二六万円で買受けたのであるが法人格を有しなかったため登記名義を得ることができず、そこで登記に代る便法として援護会が形式のみその役員の名義を用いて訴外会社の全株式を無償で譲受けたものである。

訴外会社につき昭和二一年二月二五日解散、清算人三柳将雄なる登記のなされていることは認めるが、実際にその頃株主総会が開催され解散および清算人選任の決議がなされたことは否認する。

かりに、株主総会が開催され解散および清算人選任の決議がなされたとしても、右株主総会を構成したのは前記のように名義上のみの株主であり、そうでないとしても、当時訴外会社の株式につき株券が発行されていなかったから株式議決譲渡をもって会社および第三者に対抗し得ないところ、右株主総会を構成したのはいずれもそのような株式取得をもって会社および第三者に対抗できない株主であったから、右株主総会は有効に清算人を選任する機能を有せず、従ってそこで選任された清算人三柳将雄は訴外会社の財産を有効に処分する権限を有しない。

3、かりに清算人三柳が有効に選任されたとしても、同清算人が清算人として有する訴外会社の財産に対する管理処分権はこれを他に譲渡するということは法律上不可能であり、従って、訴外三団体が同清算人から本件建物の管理処分権を譲受けその管理処分権に基づいて本件建物を控訴人互助会に無償譲渡した旨の控訴人の主張は、主張自体において失当である。

(三)  請求原因(三)の事実中訴外三団体が昭和二八年七月訴外会社から本件建物の引渡を受けたこと、ついで控訴人互助会が昭和三一年一二月七日頃三団体からその引渡を受けたことは否認する。

かりに右引渡の事実が認められるとしても、その引渡によって開始した占有は他主占有である。

かりに右占有が自主占有であるとしても、訴外三団体および控訴人互助会はそれぞれその占有のはじめにおいて本件建物が自己の所有に属さないことを知っていたものであり、知らなかったとしてもそれは過失により知らなかったものである。

(四)  請求原因(四)の事実につき被控訴人らが本件建物につき控訴人主張の如く賃借権を有すること、被控訴人らが控訴人の所有権を否認し賃料不払の意思を表示したこと、被控訴人らが控訴人主張のような訴訟を提起したことは認める。

被控訴人らは控訴人が本件建物の所有者=賃貸人であることが明らかでなくなったため賃料の支払を手控えているものであって、かりにこれが控訴人の所有であることに確定すれば賃料支払う意思と用意があるから被控訴人らの行為は賃貸借における信頼関係を破壊するものではない。

また、かりに本件建物の所有権が控訴人にあるとしても、歴代所有者が本件建物の維持管理を怠ってきたため被控訴人らにおいて長年その維持管理に当り本件建物が今日の状態で存在するのは被控訴人らの努力に負うところが大きいのであって、右事情のもとでなされた控訴人の本件賃貸借解除は信義則に反し無効である。

被控訴人鈴木清塚の賃借建物が焼失したことは認めるが、損害額については不知。

三  被控訴人若林貞子の主張は原判決事実摘示第三に記載されたところと同一であるからこれを引用する。

第三証拠≪省略≫

理由

一  訴訟の承継について

控訴人訴訟代理人は財団法人三重県公立学校職員互助会の訴訟代理人として、昭和四四年一〇月四日財団法人三重県公立学校職員互助会(代表者理事長清水英明)が設立され、次いで昭和四七年五月一一日控訴人を吸収合併したから、本件訴訟の控訴人たる地位は財団法人三重県公立学校職員互助会においてこれを当然承継したと主張するのでこの点について判断する。

ところで商法その他の法律は、当該法律による法人について合併に関する規定を設け、二個以上の法人の合意に基礎をおいて合意の当事者たる法人の一部または全部が解散し、その有する権利義務の一切が存続する法人または新設される法人に包括的に移転することを認めるのであるが、このような合意による権利義務の包括的移転は、法が特に認める場合に限るものと解するのが相当である。

控訴人互助会はいわゆる法人格なき社団であると認められ、性質の許す限り民法の社団法人に関する規定が類推適用せられるものであり、また財団法人三重県公立学校職員互助会は民法による法人であるところ、民法は法人の合併に関する規定を持たず、他に合意により合併と同一の効果を生ぜしめることを認める法の特別規定は存在しないから、かりに控訴人互助会の評議員会において控訴人を右財団法人に吸収合併する旨の決議をし、右財団法人の評議員会において同旨の議決をし、右両者の理事会が合同して吸収合併する旨の決議がなされ、右財団法人における処理として寄附行為の変更をする旨議決がなされその認可を得るという手続がとられても、これによって控訴人の権利義務が包括的に右財団法人に移転し、控訴人の消滅をもたらすという法的効果を生ぜしめるものと解すべきではない。

そうすると、本件訴訟における控訴人たる地位に当然承継は生じず、前記財団法人は訴訟参加ないしは訴訟引受によらない限り控訴人たる地位を取得することはなく、本件訴訟の控訴人たる地位は依然控訴人互助会がこれを有するといわなければならない(控訴人互助会がその財産整理をすべて完了しているとしても、本件訴訟を維持している限りその目的のためなお法人格なき社団としての存在を有するものと解する)。

二  本案について

(一)  控訴人互助会の本件建物所有権譲受けに関する主張の骨子は、本件建物はもと訴外会社の所有であったが、昭和三一年一二月七日頃控訴人互助会が訴外会社からこれを無償で譲受けたものであり、右譲渡は訴外三団体が訴外会社の清算人三柳将雄から譲渡された本件建物の管理処分権に基づいてこれをおこなったというのである。

しかしながら、会社の清算人は清算人たる地位に基づき会社の財産を管理処分する権限を有するのであって、この権限を清算人たる地位から切離して他に譲渡するということは法の許容しないところといわなければならないから、右管理処分権の有効な譲渡を前提とする控訴人の右主張は主張自体において理由がない。

また、控訴人の主張を訴外三団体は清算人たる訴外三柳将雄との合意により訴外会社から本件建物の管理処分権を譲受けたというものと解するとしても、財産の管理処分権とは、財産の帰属主体がそれであるが故に有する権能であるから、法の特別規定によって財産の帰属主体とは別個のものに帰属することはあるけれども、右権能だけを譲渡により他に帰属させ得べきものではないから、控訴人の主張は採用できない。

しかしながら、清算人は会社のために権利の乱用にわたらない限り会社財産を管理処分する代理人を選任し授権することも許されるところ、控訴人の主張を訴外三柳将雄が訴外三団体に会社財産たる本件建物を管理処分する代理権を授与したというものと解しても訴外三団体において右のごとき代理権を有効に取得したものとみることはできない。本件全立証によるも訴外三柳将雄において本件建物を管理処分する権限が訴外会社に帰属しているという認識をもっていたことも訴外三団体に管理処分の代理権を授与するという意思表示をしたとの事実もこれを認めることができないのみならず、訴外三団体とは普通地方公共団体の執行機関の一に過ぎない三重県教育委員会が含まれており、かゝるものが代理人となり得るものとは解せられないからである。

しからば、訴外三団体との合意に基き控訴人が本件建物を取得したとの控訴人の主張はその余の争点について判断するまでもなく採用の限りではない。

(二)  次に、本件建物所有権の時効取得の主張についてみるに、かりに訴外三団体が本件建物の占有を取得したとしても、それは控訴人のいう管理処分権の譲渡を原因とするものであり、他の原因についての主張・立証はないから、右占有は権原の性質上他主占有というべきであり、従ってそれは取得時効の基礎となり得ない。また、控訴人互助会の占有は無償譲渡という権原の性質上自主占有であるといわなければならないが、右無償譲渡行為は控訴人と訴外三団体との合意に基礎をおくものとする以上、訴外三団体の名において何人が合意することができるかという問題はさておいても、前述のとおり右のような合意により所有権移転の効果を生じ得ないといわざるを得ない本件においては、控訴人互助会が右無償譲渡によって有効に本件建物の所有権を取得し得たと信じたとしても、そのように信ずるにつき過失がなかったとはいえない。従って右占有が一〇年間継続したとしても控訴人互助会は本件建物を時効取得し得ず、また、占有開始から未だ二〇年は経過していない。

(三)  そうすると、控訴人の本訴請求はその余の点につき判断を進めるまでもなく理由がなく棄却されるべきものである。

三  よって、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 綿引末男 裁判官 山内茂克 清水信之)

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